耕作放棄地の復活物語!~畑の拡大~
放棄せざるを得ない理由
一枚の畑に見える土地も、細かく分かれていることが良くあります。
足元を見ると境界を示す杭が打ってあったりして、「こっちはうち。そっちは○○さんの土地」勝手に触れません。
僕がお借りした畑に隣接する草藪。陽当たりも水はけも良い最高の場所…。
この畑、8年ほど前に長年連れ添ったお父さんを亡くされ、今はお一人で生活されている地元のお母さんの土地。しかもこのお母さん、車を運転されない方なのです。
「お父さんが元気なうちは一緒にスイカ作っとったんよ。」
「一人になってから手も回らんし、草藪になってしまっとるやろ…」
話して下さるお母さんの、少し寂しそうな表情。
耕作放棄地の問題は、高齢化や就農人口減少の問題と併せて取り上げられますが、大切な土地を好き好んで放棄する人など誰一人いません。
放棄したらどうなってしまうかなんて、言われなくても良くわかってます。断腸の思いで泣く泣く「今年までか…」と決断されているのです。
これまでの人生の思い出が詰まっていたり、先祖代々の歴史が刻まれていたりするんです。
少なくとも「どうせ空いてるんだったら使わせて下さい」なんて、軽い話ではないのです。
「何でも好きに作ったらええが!」
有り難く使わせて頂くことになった後日談ですが、そのお母さんを畑にご案内した際、真っ赤に完熟した自然栽培のトマトを嬉しそうにかじって頂けたことは、僕にとって大切な思い出となりました。
もともとお借りしていた約700㎡に加え、この畑の広さが約1700㎡。
なんと一気に3倍以上の広さ、約2400㎡に拡大することになりました。
復活への道のり
大雪に見舞われたこの冬。雪解けを待ち、2月下旬に草刈り開始。
所々根を張り、育ち始めた木に「8年」という時間を感じます。
隣の畑の方から「そこU字溝入っとるよ」と言われた時、「またまた~」と笑った笑顔はどこへやら。
刈ってどけた草、撤去した木、掘り上げた土。
格闘は続くも、すでに4月半ば。
なんとしても今年の夏野菜に間に合わせてみせる!
ついにトラクター投入!
しかし、育ちに育った葛(クズ)の根っこが行く手を阻みます。
浅めに横に一回、縦に一回。深めに横に一回、縦に一回。
計4回耕してやっと形になりました。
耕すたびに無限に出てくる葛の根っこを、丁寧に手で拾い集めます。
5月中旬の苗の定植へ向けてラストスパートです!
作付け計画に合わせて畝を作ります。
作業的には、そこそこ時間かければ全然大丈夫、と思いきや最大の敵は「雨」
ここは「赤土」つまり粘土。
雨が降るとグチャグチャになってしまうので何も出来なくなるのです。
天気予報とにらめっこしながら、勝負の日は早朝から全力疾走!
ビニールマルチを張ってついに完成。
ホッとしたのも束の間、直後から種蒔き&定植ラッシュに突入するのでした。
耕作放棄地は耕作宝貴地
農薬や化学肥料を使う「慣行栽培」の畑を自然栽培に転向すると、作物がしっかり育つための土作りに最低でも3年はかかると言われてます。
一般的に土作りというと「物理性」「化学性」の2つ。
その2つの上に成り立つ「生物性」を、慣行栽培では全くと言っていいほど考慮しません。
それどころか、育てる作物以外の存在を目の敵にして、除草剤・殺虫剤・殺菌剤等で何度も何度も生物性に壊滅的なダメージを与える作業を「農作業」と呼ぶ姿は、狂気の沙汰に思えてしかたありません。
自然栽培では良く、山の土をモチーフに学びます。
土壌微生物や虫、草木や小動物等、多種多様な生物性(生態系)こそが、理想の物理性・化学性を作り出しているのであり、そのような場所では特定の虫や病気が多発するようなことも滅多にありません。
人が手を加えることが大前提である「農業」ですが、そのような理想の土に少しでも近付けるための技術が自然栽培であり、生物性はそのバロメーターとしての役割も果たしてくれるのです。
「目が農薬で、手が肥料」と言われる所以です。
人の手によって一度バランスを崩した生物性はすぐには元に戻らず、生えてくる植物の種類を毎年少しずつ変化させながら、ゆっくりと時間をかけてバランスを整え「森」に帰ろうとします。自然の力は本当に偉大です。
これが耕作放棄地の真実の姿なのです。
確かに生い茂ってしまった草木や、埋もれてしまった溝の整備などは大変な作業ですが、持続可能な環境保全型農業の究極である自然栽培から見るならば、耕作放棄地こそ宝の山であり貴重な土地!
まさに耕作宝貴地なのです。